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BIS規制と日本                                   (99'8'3掲載)荒巻昌宏

(1) BIS(国際決済銀行)と日本
(2) BISが決める世界基準自己資本比率規制について
(3) 自己資本比率規制の国内への受容
(4) 自己資本の自己査定として導入された早期是正措置
(5) 規制対象が商品から主体へ
(6) 新BIS規制で不良債券指針



(1)BIS(国際決済銀行)と日本
国際決済銀行(BIS)は、各国中央銀行をメンバーとする欧米諸国が始めた機構であり、その創設は、第一次世界大戦後のドイツの賠償に絡む1930年にまで遡る。現在では、BISIMFと連携して、グローバルな機構として大きな役割を果たしており、この意味で地域的な機構というよりも、かなり普遍的な側面を併せ持っている。
BIS
は、沿革的には、第1次世界大戦後の敗戦国から賠償金を取り立てて、関係国に配分するという機関として始まったことが示すように、ヨーロッパの金融関係者の調整機関としての役割を強く持っていた。現実にBISはアメリカ、EU、日本という3者間の協議という形で活動を行ってきた側面をもち、特に欧州勢はBISを域内の調整・協議の場として活用してきたとも言われる。BISは、中央銀行相互間の決済や、金融経済情勢に関する意見交換の場として重要な役割を果たし、また中央銀行の存在しないユーロ市場で、「ユーロ市場の番人」をもって任じてきたことが示すように、世界の金融経済の中心にあって洗練されたシステムを作り上げてきた。つまり、BISは単に欧米諸国の協力機構にとどまらず、欧州経済の発展段階が他の地域と比べて進んでいたことから、結果的により普遍的な機構という側面を備えたのである。

 BISにおいても、欧州とアメリカが中心となって、大きな発言力と影響力を行使してきたが、この背景には伝統的に英米が金融面でつねに大きなリーダーシップと貢献を発揮してきたという実績がある。第二次世界大戦後の活動を見ただけでも、BISはユーロ資金の還流、ヘルシュタット・リスクの管理、銀行の自己資本比率規制など活動分野を拡大しつづけたが、それは各時代が直面する世界の金融問題の縮図とも言えるものであった。

 こうした背景には、EU統合に関連して1970年代以降、為替レートの安定化を目的として、多用な分野でマルチタイプの中央銀行間の協力強化が図られてきたという事実がある。また、BISG―10など先進国政府間の合意を受けて、IMFと連携を保ちながら懸案事項の検討を専門的な見地から重ね、提言を行ってきた。

 最近における金融市場の統合化、グローバリゼーションの進展という中で、BISの活動は普遍性を高める結果となっている。BISの決定は本来各国の統治機構に対して拘束力を持たない。しかし事実上は市場を通じて無視しえない大きな影響力を及ぼしている。その典型的な例がBISの自己資本比率規制の採用である。

 このBISの決定は紳士協定であってそれ自体法的な拘束力をもたないが、市場を通じて事実上無視しえない大きな影響力を及ぼすのである。この基準を無視した国の金融機関の格付けは下がり資金調達は著しく困難になって、その市場は世界の投資家からまったく相手にされなくなる。この意味で、BISは世界のもっとも合理的で普遍的な基準、つまり、デファクト・スタンダードを設定しているとも言える。

 BISの決定が市場の単一化の流れの中で、より普遍的な影響を金融に対して及ぼしているのにもかかわらず、これまでの歴史的な性格からBISの組織や機構が現実の要請に充分に即応しているかどうかは問題である。しかし、現実問題としてBISの役割が著しく変容し、欧州金融関係者のサロンという性格を弱めて、世界市場の単一化が進む中でデファクト・スタンダードの創設者たる役割へと重点が移行していることである。

金融界では、情報の非対称性があるために、市場の失敗をまぬがれないことが強調される。これが原因で起こるモラル・ハザードなどの弊害を回避するため、当局による金融商品の規制、金利規制、モニタリングなどの規制が行われてきた。本来、金融業はリスクとリターンの絡みの中で本来マネーを扱うのであるから、その対象物がマネーであるという点を考慮しても、規制を加えることは、製品差別化の遅れた世界が作られたとしても不思議ではないとも言える。

 そこで、問題は金融商品そのものの標準化を推し進めることではなく、商品を世に供給する主体である金融機関の特性をチェックした客観的なシステムを構築することが必要になる。それは、供給主体の透明度を高めることであり、そのためにディスクロージャーを徹底し、格付けなどのインフラ制度を充実し深く根付かせることだ。換言すれば、金融機関のコーポレート・ガバナンスを貫徹することである。そして、このことが実現しない限りは、日本の経済社会ではいつまでも不正商品など、金融上のトラブルは跡を断たない。
日本の高度成長は既に終焉し、ストック型の経済の時代に突入して金融は世界の標準的なレベルをめざさねばならないにもかかわらず、オレンジ共済、KKC、株主総会事件、先物取引のような金融上の販売行為を適正・迅速に取り締まることができない。この点からしても人々は安心して金融取引に参加することができないといえる。

 いま大蔵省・日銀が金融ビックバンに臨んで銀行に導入させている早期是正措置は、バランスシート上の負債資産とも自ら認定し査定し自己資本比率を算出したものであるが、実は法的な拘束力をもたないBISが定めた紳士協定、基準であるに過ぎない。これもまた世界の標準に照らして自発的に選択した結果であるといえる。ではBISに代わりうる法的な専門機関があるのかと言えば、IMFも、WTOも、その任ではない。

 現実はさらに一歩先んじている。杓子定規に自己資本比率をあてはめるのではなく、モルガン銀行、バンカースなどの民間の優良銀行が開発した内部管理型のモデルが次々と発表されている。このモデルにもとづく形で民間企業の自主的なリスク管理を奨励し、これを背後からチェックするという方向で取り組むという傾向が強まっている。つまり、リスク管理の主導権は民間のイニシアティブを発揮すること、当局はそのリスク管理の仕方をチェックすることで間接的な監視へと焦点は既に移っているのである。したがって、世界の標準は単純で、画一的な物差しを求めるのではなく、各企業の個別の特性や、戦略を反映した産物であることを示唆する。それは金融商品の画一化をめざすのではなく、生産する主体のシステムを内部チェックするいうところに鍵は隠されている。

 そうした意味から注目されてくるのは、ROEなどといった資本市場における収益性の基準である。これは市場の判定である株価を通じて試行錯誤を伴いながらたどりつく普遍的な経営目標である。こうした角度からは、日本の経営システムに深く根ざすメインバンク制や株式の持ち合い関係もまた見直しが避けられなくなる。

(2)BISが決める世界基準自己資本比率規制について

 BISの統一基準である自己資本比率規制は、金融のグローバリゼーションが進む中、金融システムの健全性と安全性を確保するとともに、各国の銀行監督、規制当局の違いを原因とする銀行間の競争条件の不平等を取り除くことを狙いとして導入される。とくに、1980年以降、主要国における規制緩和の進行、自由化に加えて、世界的な規模での金融技術革新による構造変化の結果、金融資本取引は飛躍的に拡大し、その内容も大きく多様化した。金融取引におけるリスクの増大に事前に対応しようというのが英米を中心とする金融関係者の意向であった。

 こうした考え方の背景には、それまで薄利多売で突出した活発な姿勢を見せていた邦銀の海外市場における活動に自己資本を基準とした一定の規律を及ぼすことを狙いとしたからだとされる。邦銀は80年代には、海外企業の買収、LBO、不動産融資への傾斜など日本独自の基準での融資が主体となった金融攻勢を行った。オーバープレゼンスともいえる積極的な海外進出に浸り込む一方で、90年以降のバブル崩壊と歩調を合わせるように、今度はいっせいに後退し抑制に転じるという形である。ここに、アジア危機の根元があった。すでに86年春の段階で英米サイドから『銀行の自己資本充実の必要性について、それぞれの銀行の健全経営のために不可欠と同時に、銀行間の国際的な競争条件の統一(Level-playing field)の確保という観点からも必要である』との考え方が強く打ち出されていた。その後、銀行監督者会議などのセミナーを通じて意見の集約と根回しが行われ、88年7月、BISの月例総裁会議で採択される。

 なお、その後95年末、マーケット・リスクに係る自己資本規制比率が導入された。

(参照)

自己資本比率に係る国際敵統一化フレームワーク

対象

G‐10諸国及びルクセンブルクの国際業務を営む銀行 (12カ国)

算定式

リスク・アセット・レシオ=
          自己資本           8%  
リスク・アセット総額(オンバランス+オフバランス)

1.自己資本の定義

 

Tier
基本的項目

普通株式 非累積配当型優先株式 公表標準金被連結子会社の外部株主持分
無制限算入

Tier
補完的項目

非公表標準金

再評価準備金

貸倒引当金

負債性資本調達手段

期限付劣後債

・営業用不動産再評価準備金
・有証含み益 (45%算入)
・(資産評価損や特定しえない潜在 的損失を反映する金額を含んでい る場合、リスク・アセットの1.25% ポイント以下、特例で2.0%ポイント 以下)
・累積配当型優先株式、永久劣後 債、転換義務付証書等)
・(Tier1の50%が限度、残存期間 5年以内の場合毎年20%ずつ割引算入)

▼Tier1と同額まで算入可(ただし、経過期間中の措置については本表4経過措置で後述)

 


 今日では海外業務を展開し、国際的に決済を行う銀行に対しては、自己資本比率は8%以上と定められており、これがまさにデファクト・スタンダードとなっている。北海道拓殖銀行・日本債券銀行・長期信用銀行等が事実上破綻し、今後様々な金融機関が整理され海外の取引が制限されるようになる。これも自己資本比率8%を達成がその基準となっているからである。


(3)自己資本比率規制の国内への受容

 こうした国際的な基準が国内の金融行政に導入される過程は興味深い動きとしてみることができる。当時の日銀関係者は、『銀行の自己資本比率規制そのものは大蔵省の権限に属するものであるが、信用秩序の保持育成は中央銀行の使命の1つであり、その観点から銀行等に対し指導監督を行う責任を負うものであることに鑑み、大蔵省と共同してこの課題に取り組むこととなった』と述べている。

 総資産に対して自己資本がどれほどあれば負債に対して担保力があるのかはなかなか難しいものがあり、最近は8%では不足するのではないかと言われている。そのためか海外の金融機関は10%を大きく越えた水準となっている。また、自己資本比率で規制をかけることが銀行の貸出しに対する有効なチェックとなるのかは外部からはうかがい知れない。
金融行政を含め、現状の経済状況を立て直す意味でもその存在と準拠の意義が問い直されている。

(4)自己資本の自己査定として導入された早期是正措置 

 早期是正措置とは外部の検査からではなかなかチェックしえない貸出し案件を、銀行自らが査定し管理することを目的とするものである。それゆえ、金融関係者の間でもっとも大きな関心事は早期是正措置だ。

 早期是正措置が盛り込まれた金融三法とは、「金融機関の経営の健全性確保法案」「金融機関の更正手続特例法案」「預金保険法の改正案」の三案からなる。
 この三法は、旧東京協和、安全の両信組みの破綻に端を発した一連の経営不安に対処すべき法案としても、もっぱら信組の制度上、外部からの審査が及びにくいという約款上の不備を整備するものとして提案され、立法化された経緯がある。

 このため現在、自己査定に関して各金融機関は資産内容の見直しや査定の基準作りに追われ、金融監督庁の判断を待っている。

 問題は、銀行業がいま以上に強力な競争力ある金融機関として再生できるのか、あるいは競争力をもつ銀行業となるかである。つまり、本源的な金融機能が回復するかどうかということである。一方では、行政の権限が強化されることで、今まで以上のご機嫌うかがいが進むのではないかと懸念する意見もある。

金融機関が自己資本を充実させ、資産内容を管理しリスクを把握することは経営の健全性を守るための第一の条件である。その趣旨をディスクローズし財務諸表に反映させ、マーケットで高い格付けを得ることが、資金調達を有利にし、さらい高い利益率を上げることにつながる。これが金融機関の存続の条件であろう。投資家も預金者も金融機関の財務内容に注視すべきことが前提だが、実際には、情報の非対称性が存在し、金融機関内部の資産がつかみづらいのは確かである。そのため、公的な法的強制力をもつ専門の検査機関が必要とされる。

 現在、金融監督庁を中心に、内部検査のチェックリストによって提出された資産内容により自己資本の充実度に基づき5段階ほどの格付けを与え、低い格付けの金融機関には検査間隔を短くし、モニタリングを続け、最終的な業務停止命令が出せる仕組となっている。

 個々の貸出し資産の内容をみても、概して負債の多い企業の方が成長する企業といえ、そのリスクをとる金融機関がなければイノベーションも産業構造の転換も進まない。金融機関の貸出しには産業社会の先行きをみる眼こそ必要とされる。また、一方負債でみても、銀行の新商品の判定基準はどう規定されるのか、いちいち行政にうかがいを立てるのであれば、自由化の意味はない。変革やイノベーションという企業のダイナミズムを奪う恐れの可能性が高いことを理解したうえで今後の展開を注意して見守る必要がある。

 

(5)規制対象が商品から主体へ

 結局、細かいものさしを与えた命令と管理による規制は、当該金融機関に負担を負わせ、かつ、行政当局にさらに顔を向かせてしまう結果になる。かつてアメリカでも強権を発動する形で裁量を残す規制を強化したが、通達をふやす結果に終ってしまい反省期にある。今や、自由化の流れに応じ、最終的にリスクは自ら判定し、優れたリスク管理手法を銀行自らに開発させ、それを広めることに行政が手を貸す方向にある。

 例えば、JP.モルガンは開発したリスク管理手法を他の金融機関に積極的に売りこんでいる。邦銀の中にもモルガンのような気概にあふれた銀行が登場することが望まれる。
 アメリカのシカゴ連銀のM.モスコー総裁が、96年夏のシカゴ・コンファレンスにおいて行った発言は注目されるものである。同総裁によれば規制当局は、『規制対象先のインセンティブと矛盾しない(誘因整合的)』アプローチの開発に努めているという。干渉を極力弱め、ペナルティは法令違反事項を市場にディスクローズすることをもってなそうとするものである。同総裁は、それを『より多く市場の力を利用し、企業が規制目的を自分自身の目的として内生化させ、それによって技術または優位性から利益を得ることを促進するものだ』とする。

(6)新BIS規制で不良債権指針

* ポイント*
 
 国際決済銀行(BIS)の新たな自己資本比率規制導入を検討しているバーゼル銀行監督委員会は99年7月27日、新規制の柱の1つとなる企業向けなどの貸出債券の取り扱いに関して、実務指針を公表した。地域や国別、業種別の不良債券など、情報を細かく開示するよう求めているのが特徴で、各債券の引当金の開示も要請している。銀行の情報開示を充実し、経営情報の透明性を高めることで、資金調達などに市場原理が働きやすくするのが狙い。本邦銀行にとって、大手米系銀行などに比べて開示姿勢に不明瞭な点が多く、不良債権の処理以上に厄介な問題である。金融システムの問題とも絡んでくる。

 各国の金融監督当局で構成するバーゼル委は99年6月に新BIS規制の草案を公表し、意見を募っている。新規制はこれまで一律で評価している企業向け融資リスクの掛け目を細分化する方向。今回、新規制の導入に伴って強化の必要な不良債券処理の会計方法や情報開示などについて、実務指針を示した。指針でバーゼル委が最も重視しているのは情報開示。具体的には貸出債券を

業種別
地域別
貸出金の種類別



などに分けるほか、特定業種、特定地域への融資集中度に関する情報なども開示するよう要請している。地域別では「アジア」「欧州」といった大くくりではなく、国内地域を細分化した開示などが検討対象になる。

 指針は細分化した分類のそれぞれについて不良債券を開示した上で、引当状況も公表するよう提言。実際には利払いがないのに一定期間は金利があったように会計処理する「未収利息」は、原則として認めない姿勢を打ち出している。

 詳細な情報開示などを要求するのは、不良債券を正常債券に見せかける経理操作の余地を狭めるのが狙い。自己資本比率が銀行の資産内容を正確に反映するようにさせることで、投資家や預金者が銀行経営の安全性を確認する有効な指標になるとバーゼル委は判断している。

 情報開示の充実については、日本の大手銀行は大手米銀に比べ遅れている。特に種類別のほか業種別などの不良債券の開示やそれぞれの引当状況は、ごく一部の銀行しか開示していない。指針公表を受け、各行が対応を迫られるのは必至。一部の大手邦銀は999月中間期にも、指針に沿った情報開示に踏み切るところもある。(7月28日)

バーゼル銀行監督委が公表した不良債券開示のポイント

 

大手米銀(シティ・コープ'92 年)

邦銀(都市銀行)

地域別の開示

業種別の開示

種類別の開示

×

上記区分に応じた引当金の開示

○=開示   △=一部に開示例あり   ×=開示例なし

 





















国際金融ノート

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