ファンダメンタル分析入門
荒巻昌宏
Ⅰ.金利予測について
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1.その経済指標は金利を上昇させる要因か低下させる要因か
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2.経済指標と金利
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(1)景気に関する経済指標の場合
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(2)消費者物価などインフレに関する指標の場合
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(3)金融当局の政策判断について
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3.実践的な金利予測の判断
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4.代表的な経済指標について
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(1)指標統計の対象範囲
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(2)先行性
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(3)速報性について
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(4)政策面について
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5.無視できない米国の指標
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(1)前月(期)比中心の指標
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(2)大きな修正の可能性
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----- 注目すべき経済指標 -----
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Ⅰ.金利予測について
1.その経済指標は金利を上昇させる要因か低下させる要因か
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経済指標はいろいろな情報を含んでいるが、マーケット参加者にとって重要なのは、それが金利に対してマーケットレートがどのように反応するか、または反応しているかを把握することです。そして、
1. 金利予測
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2.経済指標
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3.マーケットレート
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の3者を結び付けて考えることが重要になります。
特に、金利の判断をする時に重要なのが金利予測です。経済指標とマーケットレートとの間には、様々なマーケット参加者の金利予測が存在します。
そのため、経済指標とマーケットの関係をとらえるには、
・経済指標が金利予測にとってどのような意味を持つか、
・そうして得られた金利予測を踏まえてマーケット参加者はどのように対応すべきかまたはしているか、
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という2つのアプローチで判断する必要があります。
金利、為替について 当ホームページの『外国為替講座』『国際金利講座』にも変動要因の解説がありますが、金利とそれぞれの市場の対応との関係を考えてみましょう。
まず、金利については説明のために債券相場を例にしてみます。いま、市中金利2%に等しい利回りの債券を保有しているとします。ここで金利が将来3.5~4.0%に上昇すると予想されると、その投資家であるあなたはどのように行動すべきでしょうか。基本的には、いま持っている債券を売却して近い将来利回りが上がるまでキャッシュポジションを厚くし、利回りが上がった段階で、高い利回りの債券を将来購入するという方法を取ることが最善です。逆の場合には高い債券の運用を多くすることが基本です。したがって、金利の上昇が予想される場合は、債券は「売り」となり、そういう姿勢が支配的になれば債券価格も低下することになります。逆に、金利の低下が予想される場合には、債券「買い」の人々が多くなり、債券価格は上昇・利回り低下という債券相場が主流となります。
一方、為替(対ドル・円)の場合はというと・・・。アメリカの金利は変わらないとして、日本の金利のみが上昇すると想定される時を考えてみましょう。全体のグローバルなポートフォリオを変えないとした場合、円建てで資産運用をする方がドル建てより有利と考えられますから、為替をみた場合、円は「買い」となります。したがって、円資産に対する需要も増加し、対ドル円レートは円高の方向に推移するものと考えられます。逆に、日本の金利低下が予想される場合は円は「売り」、対ドル円レートは円安となります。これは、金利相場が主たる変動要因となっている時ですが・・・。
それでは、第1のアプローチ、『経済指標は金利予測にどのような意味を持つか』、という点について考えてみましょう。
(1)景気に関する経済指標の場合
一般的に、生産や支出を示す景気経済指標(例えばGDP、鉱工業生産、雇用統計など)がプラスの方向に変化した場合、それは、金利を上昇させるものと考えます。その理由として、景気が好転すれば、資金需要が増加します。間接金融の日本の場合、企業は設備投資・生産増強のために銀行からの借り入れを増やす行動をとります。それは、銀行サイドからすると今のアセット以上に貸出をしなければなりませんから、市場からその資金を引き出すことになります。その資金の出し手は今よりも金利を高めにした水準での運用を考えます。したがって、市場の金利は上昇します。そして、この高めの金利を企業側に提示するわけです。企業サイドは、景気の先行きに自信が持てれば、各種事業の発展と採算を考慮して、金利コストの上昇分を収益の増加でカバーできるはずと考えます。したがって、景気関連指標の好転は、債券にとっては「売り」材料(利回り上昇)、外国為替市場では魅力の増した自国通貨の「買い」ということになります。
(2)消費者物価などインフレに関する指標の場合
これも一般的に、インフレ指標の上昇が、インフレの加速を促すものと考えられた時、金利の上昇要因と考えます。資金の出し手からすると、インフレになれば物価上昇分だけ金利(利息)の受取りが目減りすることになりますから、その資金の取り手に対してそれをカバーするために金利の引き上げを要求することになります。一方、資金の取り手にしてみても、インフレ分を除いた実質的な金利コストが元の水準のままであれば文句は言えない。したがって、インフレの加速は、債券にとって「売り」材料ということになります。一方、為替に対する影響については注意が必要です。インフレは短期的には、金利上昇要因と考えられます。その点では自国通貨の魅力の増加につながると考えられます。しかし、物の流れを長期的に見ると、インフレによって物の値段が上がり相対的に自国通貨の交換価値が低下することになりますからその点で逆の判断も考えられます。その時々の相場展開を注意しておく必要があります。
(3)金融当局の政策判断について
金利を考える時、経済指標に対する米国FRBや日本銀行等の金融当局の対応にも大きく影響を受けることがしばしばあります。したがって、経済指標だけで金利の判断はできないことを忘れないようにしてください。
例えば、景気関連指標で、景気が過熱気味になっている状態を示している時、景気抑制のために金融当局は金利を高めに誘導することが予想されます。また、インフレがかなりのスピードで加速している時には、『物価安定の観点』から金融当局による金利の高め誘導が予想されます。
つまり、経済における純粋な波及経路を考えることによって得られた上の2つのアプローチは、金融当局の政策対応を考えることによっても得ることができるといえます。
しかし、金融当局の対応の仕方は単純とは言えません。例えば、インフレを良しとすることに金融政策上優先度が高い場合には、景気関連指標が少々悪くなってもインフレが加速している時、金融当局は景気を考えるよりもインフレを優先させる訳ですから、政策上緩和スタンスを打ち出す可能性は低いと考えられます。バブル退治の目的で『平成の鬼へい』と揶揄された三重野日本銀行総裁の取った政策がその例です。つまり、景気関連指標と金利との関連はその分薄れることになります。
逆に、景気回復が重要な政策課題の時には、金融当局は物価よりも景気関連指標の動きを重視することになります。その意味で、経済指標に対する対応の仕方を考える場合、財政・金融政策の中での金融指標の位置づけについて「いま、金融政策当局にとって何が重要か」ということを、念頭に置く必要があります。
以上、経済指標の市場における意味について一般論として説明してきました。しかし、実際のマーケットの反応はもう少し複雑といえます。というのも、指標が公表された時点で実際にマーケットに影響を及ぼすのは、その指標の絶対的な水準ではなく、指標の予測値からの乖離の度合いであるという点に注意する必要があります。
外国銀行・証券のエコノミストの重要な仕事は、その日発表される経済指標の値を予測することであるといわれています。外資系の金融機関では主要経済指標の予測値と簡単なコメントを記したレポートが丸秘レポートとして毎週作成され、FAX等の手段で顧客にも配布されています。このようなレポートや同様な機関に対する聞き取り調査に基づいて、予測値の平均値として情報ベンダーおよび調査会社からコンセンサスとして報道されています。特に著名なエコノミストの見方や数値は市場で注目されこの平均値との比較に使われることもあります。
市場のコンセンサスは、実際に指標が発表される前にこれらの予測値に対して徐々に反応していくことで出来上がってきますが、実際の値が予測値から大きく離れていなければ、市場は公表後、大きな反応を見せません。このような状況はしばしば、「織り込み済み」と表現されます。逆に、実際の値が予測値から大きく違った場合、マーケットはそれに応じて反応することになります。
市場に参加する時には、そのコンセンサスがどの位の値になっているかどのくらいの範囲かを事前に知っておく必要があります。また、平均的な予測値との比較ではなく、実際の公表値が予測の範囲を出るか出ないかという点で対応が決定されることもあるので注意が必要です。付け加えるならば、指標発表後のエコノミストのコメント、金融当局の重要人物の発言にも注意が必要です。
例えば、第4四半期のアメリカのGDPが前期比年率4%というかなり高めの成長率を示すと予想されたとします。この場合、外国為替市場では、ドル高を見越してドル買いの動きが出てくるので、指標の公表前にかなりドル買い持ち(ロング)になっていると考えられます。ところが、実際の公表値が3%だったとすると、成長率自体は比較的高いにもかかわらず(アメリカの潜在成長率は2.5%程度と言われている)マーケットの予想を下回っているので、いままでのドル高が修正されることが予想されます。この時、為替トレーダーはただちにドルを売って、取りあえず利益を確保しようとする動きになることが予想されます。こうした動きが支配的になると、比較的高い成長率が公表されたのにもかかわらず、ドル安が進むことになります。為替の場合特に、通貨オプションの節目となるチャートポイントがあるかどうかが特に重要です。
まして、金融当局は、市場参加者の予想を気にして事前に何らかの発言をすることが多く、重要な指標が予想から大きく離れれば、政策の変更を検討する可能性も高くなります。いずれにせよ、指標の公表に備えてエコノミストの予測やその背景となる要因を事前調査しておき、実際に指標が公表されたときに冷静に対応する心構えが重要ということになります。
経済指標はほぼ毎日のように公表されています。
日本の場合は重要な指標の発表が月末・月初にかなり集中しているのに対して、アメリカではその発表日が比較的散らばっており個別指標に対する注目度がその分平均化しているように見えます。
また、四半期ベースの指標のスケジュールを見ると、特にアメリカの場合、GDPの公表が事前、暫定、最終推定値と1ヶ月ごとに発表されており、3ヶ月毎にしか発表されない日本の場合に比べてGDP統計に対するマーケットの注目度が高まる仕組になっているといえます。そのため、アメリカでは、各経済指標の動きに対する解釈も、GDPの動きと関連づけて行われることが多いのが特徴です。
このように経済指標には様々なものがあり、また、発表のタイミングも異なっている為、市場参加者としてはどの指標を特に注目すべきか考えてみましょう。
経済指標の特性について、次の点が上げられます。
(1)指標統計の対象範囲
|
(2)先行性
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(3)速報性
|
(4)政策面
|
(1)指標統計の対象範囲
その経済指標が経済全体の動きをより広くカバーしていればいるほど、その指標の利便性・重要性は高いと考えていい。その意味で、特に経済全体の動きを総括的に示すGDPや雇用統計は、例えば小売売上高(個人消費の一部を構成するにすぎない)よりも重要な指標と言える。他の指標にしても、市場がその注目度を重視した時には、その動きを見る必要があります。表1、表2は、一般の解説書や経済統計の出版物に掲載された分類に基づいて一覧にしたものです。主要な経済指標をGDPの各構成項目に対応させて分類したものです。
ただし、調査対象が広ければそれでよいというわけではありません。特に景気を中心に市場の関心が強い時には、消費関連のデータは、指標の統計対象の範囲が広いにもかかわらず、他の指標に比べるとかなり安定した動きを示す傾向があります。したがって、市場の注目が、景気の短期的な動きを注目する場合には、設備投資や住宅投資、あるいは在庫投資などのように、GDP・雇用統計に比べてやや劣っても短期的な景気循環の"波"を構成する指標に注目する必要が出てきます。ここでも、市場の関心に注目した経済指標を観察することが重要となります。市場を知ること意外にありません。
(2)先行性
市場の参加者にとって、いまの経済状態そのものよりも、これからどうなるかどのような予測(シナリオ)が描けるかが重要になります。ディーラーとして、そのストラテジを描く能力の有無が大切です。特に景気の転換局面において、いつその時機となるかを特定しシナリオを描くことは相場に対峙するものにとって死活問題となります。その時期が問題となっている場合には、当然景気の先行きをより正確に示す指標が注目を集めることになります。この時、先行指標として経済全体の景気回復に先んじて上昇・下降する傾向の強い住宅関連指標、将来の設備投資や生産等の動向を占う各種受注統計などに注目が集まります。また、一般にマネーサプライも、実体経済や物価動向に対してある程度の先行性を持つと考えられ重要視されます。
1 主要経済指標の分類(米国)
GDP
|
GDP
雇用統計
全米購買部景気指標
鉱工業生産・設備稼働率
失業保険新規申請件数
景気総合指数
労働生産性/単位労働コスト
|
|
個人消費
|
小売売上高
個人所得・消費支出
乗用車販売台数
消費者信頼感指数
消費者信用
ジョンソン・レッドブック
|
民間固定資本投資・設備投資
|
耐久財受注・出荷
製造業出荷・在庫・受注
建設支出
設備投資調査
|
住宅投資
|
住宅着工・許可件数
新設住宅販売件数
建設支出
|
在庫
|
企業在庫・売上高
|
純輸出
(輸出・輸入)
|
貿易統計
国際収支統計
|
政府支出
連邦政府
地方政府
|
財政支出
雇用統計
建設支出
|
インフレ指標
|
生産者物価指数(PPI)
消費者物価指数(CPI)
雇用コスト指数
労働生産性/単位労働コスト
|
表2 主要経済指標の分類(日本)
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GDP
|
GDP
企業短期経済観測調査(短観)
労働力調査
鉱工業生産(生産)
景気動向指数
|
|
個人消費
|
自動車新規登録台数
大型小売店販売
家計調査
消費動向調査
|
民間固定資本形成
設備投資
|
鉱工業生産(資本財出荷)
機械受注
企業短期経済観測調査(短観)
建設工事受注
法人企業動向調査
法人企業統計
|
住宅投資
|
新設住宅着工戸数・着工床面積
建設工事受注
|
在庫
|
鉱工業生産(在庫)
|
純輸出
(輸出・輸入)
|
通関統計
国際収支統計(経常収支)
|
政府支出
最終消費支出
固定資本形成
在庫
|
機械受注、建設工事受注
|
インフレ指標
|
卸売物価指数(WPI)
消費者物価指数(CPI)
企業向けサービス価格指数(CSPI)
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(3)速報性について
先行性が指標そのものの性格を示すものであるのに対し、速報性は指標の公表のタイミングに係ってきます。景気の動向がいろいろ議論されているとき、それを最も早く教えてくれる指標の動きにマーケットが注目するのは言うまでもありません。米国の場合、全米購買部景気指数、乗用車販売台数、雇用統計がかなり早い時点で最近月の実体経済の動きを示しておりその点では速報性があるといえます。特に、雇用統計は、他の景気関連指標の動きを先取りする傾向があるため、マーケットの注目を浴びています。この背景として、米国の場合、1929年の世界恐慌以来全体的な雇用情勢が経済政策運営の柱となっていることに起因しているといわれています。一方、欧州の場合この恐慌での経験からかインフレに対する警戒感が強く経済政策運営の柱を物価動向においています。
月の中旬から下旬にかけては重要な指標が発表されますが、すでに発表された指標(特に雇用統計)のトレンドを追認するにすぎなければ、その情報価値は低いものと判断される傾向が強いです。そのため、米国の場合、雇用統計の動向でその月のストラテジを考えることができます。しかし最近は、雇用情勢の転換点がいつかを市場の参加者が注目しているためか、この雇用統計に先んじて発表される(毎週木曜日)失業者申請件数に注目した人々が多くなっています。
(4)政策面について
ところで、冷徹な数値である経済統計指標の中で、最も注目すべき物は何かを考えなければいけません。そこで、金融当局が重視している(あるいは重視していると考えられる)経済指標に注目してみる必要があります。1980年代のボルカー連銀総裁当時はサプライサイドの経済理論をベースにマネーサプライが注目され(米国経済の再生復興を目的にした資本注入)、1990年代初頭の金融緩和局面においてはグリーンスパン連銀総裁のもとFRBが最も重視していたのは、前出の雇用統計、特に非農業部門雇用者数の動きでした。1994年年初以降、景気が回復軌道に乗っていることが明確になってきたことを受けて、FRBは引きしめスタンスに転じています。
一方、1995年のメキシコ危機・1997年以降のアジア危機・ロシア危機・ブラジル危機が米国経済に影響が及ぶ可能性が出てくるとFRBは躊躇なく金融緩和政策にスタンスを変更しているところから、その政策は市場の反応に対して敏感に反応するようです。日本の金融政策とは対照的に基本的に、米国の利益を優先にした金融政策が取られていると考えて間違いはないでしょう。そして、その最終目的は、一方で長期金利の水準(企業金融の調達目的)と米国の株式相場のあり方(直接金融市場の活性化)に集中していると考えられます。
しかし、フェデラル・ファンド・レートの引き上げの時期については、やはり雇用統計が重要な鍵を握っていると考えられます。米国の為替に限らず債券相場・商品相場も米国経済の行方を占うように相場が形成されているためだからです。
物価関連の指標やマネーサプライも金融政策にとって重要な指標である、あるいはそう信じられています。マーケット参加者としても、こうした指標の公表を受けてFRBがどのような政策対応を示すかという点に注意せざるを得なくなっています。『市場中心の経済運営が米国の利益』とする考え方が主流となっているからでしょう。この状況の主導権を握るために・・・。
一方、日本の場合は、日銀の政策変更と経済指標の公表タイミングとの間にそれほど明確な相関関係はないように思われる。四半期に一度公表される「企業短期経済観測調査」(「短観」)「情勢判断資料」などで、日銀の経済に対する見方の変化を探るしかありません。そして、この政策について海外からの信頼を得ているかも重要です。現状では、米国以外『内政干渉の無い国』はないのですから。
金融当局が重視する指標は、そのときどきで変わる可能性があります。金融政策に景気回復の責任が負わされていると見られる場合は景気関連指標が重視されるが、インフレ抑制が重要な政策課題であれば物価関連指数が、また、対外不均衡がそれであれば貿易関連指標が重視されるというように。
この点では、米国連銀等の重要人物の発言が参考になります。彼らの発言の真意を探るべくマスコミのレポートが出されています。これらを参考にするのも一つの手段といえます。注意しなければならないのは、注目の経済指標の数字は一つでもその解釈は様々なものとなります。そこで体勢的な意見がどういうことかをつかむことと、その意見にはあまり固執しないように、そして柔軟な発想をもって冷静にみることです。
いずれにせよ、経済指標については、各指標の「持ち味」を最大限に利用してマーケットの戦略に生かす工夫が必要となります。
一方でマーケットの経済指標に対する信頼性を減殺するものとして、指標の変動の大きさや、修正の幅が挙げられます。いくら重要であっても、毎月の変動が大きければその変化をどう解釈してよいか判断に困ることがあるし、一度公表された数字があとでコロコロ変わるようだと、へたに反応しては危険だということになります。なかでも受注統計は、こうした点でかなりその信頼性を失っているようです。
外国為替市場へのインパクトの大きさを考えると、アメリカの指標の重要性そしてこれに裏打ちされた金融政策は他を遙かに超越しています。日本の指標もマーケットに影響を及ぼしてはいますが、その度合いはきわめて限られているように思えます。アメリカの指標に注目するのはいわば"ゲームのルール"であって、いくら日本の経済力が強化されたと言ってもそのルールを大きく変えるには至っていないからです。基本的に米国中心に考えれば大きく相場をはずすことはないからです。しかし、アメリカ経済の動向がかなり明確となって、日本経済の動向が非常に不透明となる局面では、日本の指標が注目される度合いが高まることもあります。
ところで、日本国内の債券市場、株式市場では、日本の指標に注意を払うのは言うまでもありません。
<アメリカの経済指標の注意点>
(1)前月(期)比中心の指標
まず、前年同月(期)比に注目する日本とは異なって、アメリカは季節調整済みの前月(期)比を中心に議論しています。足元の景気動向を見る場合には、前月(期)比の方が理論的に優れていることはまちがいなく、前年同月(期)比のデータを中心に用いている日本の景気論議にはしばしば混乱が認められます。
しかし、いくら季節調整を済ましているといっても、前月(期)比の指標は振れが大きく、その解釈には注意が必要です。そのため、エコノミストのコメントが指標の解釈をする際には必要になります。細かい問題は、島国では知りようが無いのに似ています。
(2)大きな修正の可能性
次に、大幅な修正がしばしば行われるという点です。アメリカの場合、数値の厳密性を少々犠牲にしても速報性を重視する傾向があるためと考えられます。特に顕著なのがGDP統計で、例えば1-3月期の成長率は4月下旬に早くも発表になり、5月、6月にそれぞれ第1次、第2次改定値が発表される(日本は6月に1回のみ)。そして、そのたびにかなりの修正が行われるのです。不思議なことに、修正された値の方が正確なはずなのですが、マーケットに与えるインパクトとしては、最初の速報値の方が圧倒的に大きいといえます。改訂されるたびにいろいろな議論がなされ相場に織り込む形になっているためとも解釈できます。
注目すべき経済指標
[ アメリカ ]
経 済 指 標
|
指標統計の対象範囲
|
先 行 性
|
速 報 性
|
政策面について
|
雇用統計
|
◎
|
|
◎
|
◎
|
GDP
|
◎
|
|
|
◎
|
消費者物価指数
|
◎
|
|
|
◎
|
小売売上高
|
◎
|
|
|
|
住宅着工・許可件数
|
|
◎
|
|
|
耐久財受注・出荷
|
|
◎
|
|
|
全米購買部景気指数
|
○
|
|
◎
|
|
生産者物価指数
|
◎
|
|
|
○
|
貿易統計
|
|
|
|
◎
|
マネーサプライ
|
○
|
○
|
◎
|
◎
|
失業保険新規申請件数
|
○
|
|
◎
|
|
乗用車販売台数
|
|
|
◎
|
|
ジョンソン・レッドブック
|
|
|
◎
|
|
消費者信頼感指数
|
○
|
|
◎
|
|
新設住宅販売件数
|
|
◎
|
|
|
鉱工業生産・設備稼動率
|
◎
|
|
|
|
雇用コスト指数
|
◎
|
|
|
|
消費者信用
|
|
|
|
|
個人所得・消費支出
|
◎
|
|
|
|
建設支出
|
○
|
|
|
|
設備投資調査
|
○
|
|
|
|
製造業出荷・在庫・受注
|
○
|
|
|
|
企業在庫・売上高
|
○
|
|
|
|
労働生産性
|
◎
|
|
|
|
景気総合指数
|
◎
|
|
|
|
国際収支統計
|
|
|
|
○
|
財政収支
|
|
|
|
◎
|
[日本]
経 済 指 標
|
指標統計の対象範囲
|
先 行 性
|
速 報 性
|
政策面について
|
GDP
|
◎
|
|
|
◎
|
企業短期経済観測調査
|
○
|
|
|
◎
|
消費者物価指数
|
◎
|
|
◎
|
◎
|
機械受注
|
○
|
◎
|
|
|
鉱工業生産
|
○
|
|
|
|
景気動向指数
|
◎
|
|
|
|
通関統計
|
|
|
○
|
◎
|
国際収支統計
|
|
|
|
◎
|
マネーサプライ
|
○
|
○
|
|
◎
|
卸売物価指数
|
◎
|
|
|
|
有効求人倍率
|
|
|
|
○
|
大型小売店販売
|
○
|
|
|
|
新設住宅着工戸数
|
|
◎
|
|
|
失業率
|
◎
|
|
|
○
|
賃金、労働時間、雇用者数
|
◎
|
|
|
|
自動車新規登録台数
|
|
|
◎
|
|
家計調査
|
◎
|
|
|
|
消費動向調査
|
◎
|
|
|
|
建設工事受注
|
○
|
◎
|
|
|
法人企業動向調査
|
○
|
|
|
|
法人企業統計
|
○
|
|
|
|
企業向けサービス価格指数
|
○
|
|
|
|
財政資金対民間収支
|
|
|
|
○
|
|